事件番号:JP2006-0002

                                  裁  定

    申立人:
(名称)ベリサイン  インコーポレイテッド
    (住所)アメリカ合衆国  カリフォルニア  94043,マウンテン  ビュー,イー.
            ミドルフィールド  ロード  487,エム/エス  エムブイ2-2-1
    代理人:
    弁理士  山本  秀策
    弁理士  安村  高明
    弁理士  森下  夏樹

    登録者:
    (氏名)堀田  政義
    (住所)〒162-0825東京都新宿区神楽坂3丁目6番10  ヒルサイド神楽坂502号

  日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理
を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1  裁定主文
    ドメイン名「THAWTE.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2  ドメイン名
    紛争に係るドメイン名は「THAWTE.JP」である。
3  手続の経緯
    別記のとおりである。
4  当事者の主張
a  申立人の主張
 (1)登録者のドメイン名と申立人の所有する登録商標とが同一であることについて
    1.1  申立人の所有する登録商標の著名性
  申立人は、欧文字「THAWTE」からなる商標を、第9類「暗号化用コンピュータソ
フトウェア,その他の電子応用機械器具及びその部品,電気通信機械器具,レコード,業
務用テレビゲーム機,家庭用テレビゲーム機」を指定商品として、平成13年12月3日
に、日本国特許庁に出願し、同商標は平成14年9月13日に商標登録されている(登録
第4602873号)(甲第1号証)。
  「Thawte」を社名とする認証機関Thawteは、1995年に設立された、世
界第二位のシェアを誇る認証機関であり、1995年より各種サーバー認証及びコードサ
イニング認証を世界各国のお客様へ提供している(甲第2号証及び甲第3号証)。
  したがって、申立人が所有する商標「THAWTE」は、現在はもちろん、遅くても本
件ドメイン名の登録日である2001年10月31日には(甲第4号証)、わが国において
取引者及び需要者の間で周知・著名である。
  なお、申立人は、1999年に認証機関Thawteの株式を取得し、傘下においてい
る(甲第2号証)。
    1.2  本件ドメイン名と申立人の登録商標「THAWTE」の同一性
  本件ドメイン名は、「THAWTE.JP」であり、2001年10月31日に登録され、申立書
が提出された時点(平成18年6月30日)において、JPRSに登録されている(甲第4号
証)。
  本件ドメイン名のうち、「.JP」の部分は国別コードを表す部分に過ぎないことから、識
別機能を果たす部分は、「THAWTE」の部分にあることは明らかである。
  これに対して、申立人が所有する商標は欧文字「THAWTE」からなるものである。
  したがって、本件ドメイン名の識別機能を果たす部分と申立人が所有する商標とは、同
一である。

 (2)登録者が本件ドメイン名の登録について権利または正当な利益を有しないことに
ついて
  本件ドメイン名「THAWTE.JP」中の欧文字「THAWTE」は、申立人の傘下にある認証
機関Thawteが、役務の提供に際して、世界中で使用している(甲第2号証及び甲第
3号証)。
  登録者は、申立人及び認証機関Thawteと一切の資本関係及び取引関係はなく、ま
た、申立人は商標「THAWTE」に係るドメイン名を登録することを登録者に許可して
いない。
  したがって、登録者は、認証機関Thawte、及び、申立人に無断で、ドメイン名
「THAWTE.JP」を登録したと認められる。

 (3)登録者の本件ドメイン名が不正の目的で登録または使用されていることについて
   3.1  上記(2)で述べたとおり、本件ドメイン名は、申立人の傘下にある認証機関T
hawteが使用し、及び、申立人が所有する世界的に著名な商標「THAWTE」を含
むものである。
  また、欧文字「THAWTE」は、申立人の傘下にある認証機関Thawteが創作し
た造語である。その証拠として、英和辞典には欧文字「THAWTE」は掲載されていな
い(甲第5号証)。したがって、登録者が、造語である欧文字「THAWTE」を、偶然ド
メイン名として採用するとは考えられず、登録者は、認証機関Thawteが使用してい
る「Thawte」、及び、申立人が所有する登録商標「THAWTE」に依拠して、本件
ドメイン名「THAWTE.JP」を決定したことは明らかである。同様の判断が、登録者が有して
いた商標登録第4643932号に係る異議決定の中でなされている(甲第6号証)。
    3.2  申立人の傘下にある認証機関Thawteは、トップレベルドメイン名
「www.jp.thawte.com」及び「www.thawte.com」を使用している(甲第3号証及び甲第7号
証)。
  したがって、本件ドメイン名「THAWTE.JP」は、申立人がドメイン名「THAWTE.J
P」を使用することを妨害するために、登録者が登録したものと認められる。
    3.3  登録者は、本件ドメイン名「THAWTE.JP」を現在使用していないが(甲第8号証)、
単に保持しているだけであっても、本件ドメイン名の登録時から、申立人の所有する登録
商標は周知・著名なものであり、本件ドメインを使用すれば誤認混同を生じることは明ら
かである。
  また、登録者が、第37類「電気通信機械器具の修理又は保守,電子計算機(中央処理
装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスクその他の周辺機器
を含む。),等」を指定役務とした、商標「THAWTE/ソーテ」に係る商標登録出願に
対し、上記出願に係る商標は、電子認証サービス企業として著名な「thawte社」が
提供する役務と出所の混同を生じるおそれがあると、特許庁において判断されている(甲
第9号証)。
  以上述べたことから、登録者が、本件ドメインを使用しないで、単に登録を保有し続け
ること自体が、「不正の目的で登録または使用されている」とみなされるものである。

  (4)求める救済処置
    申立人は、この紛争処理の対象であるドメイン名の登録を、申立人へ移転することを
求める。

    b  登録者の主張
    登録者は答弁書を提出しなかった。

5  争点および事実認定
(1)  登録者の答弁書不提出について
  登録者は、JPドメイン名紛争処理方針(以下紛争処理方針という)のための手続規則
(以下手続規則という)第2条(a)に基づいて適式に申立書の送付を受けたにもかかわらず
答弁書を提出しなかった(別記手続の経緯参照)。よって、本件において争点は形成されて
いない。
  登録者から答弁書が提出されなかった場合、手続規則第5条(f)は、パネルに対し、例外
的な事情がない限り、申立書に基づいて裁定を下すことを指示している。そして、手続規
則第15条(a)は、パネルは、提出された陳述・文書に基づき、処理方針、手続規則及び適
用されうる関係法規の規定・原則、並びに条理に従って、裁定を下すべきこと、更に、手
続規則第10条(b)は、パネルは、全ての事件において当事者が平等に扱われ、各当事者の
立場を表明する機会が公平に与えられるよう努力すべきことを指示している。
  登録者は、本件において答弁書を提出していない。しかし、登録者が登録第4643932号
をもって特許庁に登録した商標「thawte / ソーテ」に対し本件申立人が行った異議申立事
件(甲第6号証)において、取消通知に対し意見書を提出しており、また同異議申立事件
において本件申立人が引用した日本知的財産仲裁センターにおけるドメイン名
「barnesandnoble.jp」の紛争処理事件(JP2002-0004)においても、答弁書を提出している。
登録者は、本件において答弁書を提出していないので本件ドメイン名を登録した目的は
定かではないが、上記した商標登録異議申立事件及びドメイン名の紛争処理事件における
登録者の答弁から本件ドメイン名を登録した目的を推認することは出来る。しかしながら、
例え登録者が本件紛争処理において同様の主張を試みたとしても、当パネルはその主張に
賛同することは出来ない。
よって、当パネルは手続規則の定めに従って、申立人の提出した証拠に基づいて、申立
人の主張するところが、紛争処理方針4条a.に定める3要件を充足しているかどうかを検
討する。

(2)争点及び事実認定
    紛争処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを
指示している。
    1)  登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
    2)  登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと
    3)  登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

  (3)申立人及び登録者
  申立人は、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証から、1995年に設立さ
れた世界第2位のシェアを誇る認証機関であって、1995年から各種サーバー認証及びコ
ードサイニング認証を「THAWTE」の名称を用いて世界各国の顧客に提供している認
証機関Thawte Consultingを資本傘下におく、インターネット信託業務の世界的有力業者
であると認められる。

  登録者は、東京都新宿区に住所を有する個人である。

  (4)本件ドメイン名「THAWTE.JP」は、申立人の商標「THAWTE」と同一又は混同
を引き起こすほどに類似するか
  本件ドメイン名は、「THAWTE.JP」であり、  本件ドメイン名のうち、「.JP」の部分は国
別コードを表す部分に過ぎないことから、識別機能を果たす部分は、「THAWTE」の部分にあ
る。
  これに対して、申立人が所有する商標は欧文字「THAWTE」からなるものである。
  したがって、本件ドメイン名の識別機能を果たす部分と申立人が所有する商標とは、同
一であるから、本件ドメイン名「THAWTE.JP」は、申立人の商標「THAWTE」と混同を
引き起こすほどに類似するものであることは明らかである。

  (5)登録者はドメイン名の登録について権利又は正当な利益を有するか
  紛争処理方針第4条c. は「特に以下のような事情のある場合には、登録者は当該ドメ
イン名についての権利又は正当な利益を有していると認めることが出来る」と定めている。
  1)  登録者が、当該ドメイン名に関わる紛争に関し、第三者又は紛争処理期間から通知
を受ける前に、何ら不正の目的を有することなく、商品又はサービスの提供を行うために、
当該ドメイン名又はこれに対応する名称を使用していたとき、または明らかにその使用の
準備をしていたとき
  2)  登録者が、商標その他の表示の登録等をしているか否かにかかわらず、当該ドメイ
ン名の名称で一般に認識されていたとき
  3)  登録者が、申立人の商標その他の表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことに
より商業上の利得を得る意図、または、申立人の商標その他の表示の価値を毀損する意図
を有することなく、当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、又は公正に使用していると
き
  ドメイン名の登録について、登録者が権利又は正当な利益を有することについては、登
録者が主張・立証すべきところ、登録者は答弁書を提出せず、また、本件ドメイン名の登
録について権利又は正当な利益を有することの主張・立証をしなかったので、申立人の主
張及び証拠により、これを検討する。
  登録者は、「thawte / ソーテ」と二段に併記した商標を、本件ドメイン名の登録に先立
つ平成13年(2001年)10月30日に特許庁に対し登録出願し、平成15年2月14日に登録
第4643932号をもって設定登録を受けたが、この登録は、本件申立人の登録異議申立によ
り、取り消されたことが甲第6号証により認められる。また、登録者は平成15年(2003
年)7月3日特許庁に対し商標「THAWTE/ソーテ」の登録出願(商願2003-60749)
をしたが、この出願に関わる商標は電子認証サービス企業として著名な「thawte社」の役
務と役務の出所について誤認を生じさせる恐れがあるとの理由により拒絶査定を受けてい
る(甲第9号証)。
  登録者は、申立人及び申立人傘下の認証機関Thawteと一切の資本関係及び取引関
係はなく、また、申立人は商標「THAWTE」に係るドメイン名を登録することを登録
者に許可していない。したがって、登録者は、認証機関Thawte、及び、申立人に無
断で、ドメイン名「THAWTE.JP」を登録したと認められる。
  また「THAWTE」の語は、英和辞典にも掲載されていない(甲第5号証)ので、申
立人により創作された造語と認められる。
  更に、登録者が本件ドメイン名で一般に認識されているとは認められず、また、登録者
は申立人の商標その他の表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利
得を得る意図または申立人の商標その他の表示の価値を毀損する意図を有することなく、
本件ドメイン名を非商業的目的に使用し又は公正に使用しているとも認められない。
  これらの事実を総合して判断するに、登録者は、本件ドメイン名の登録について権利又
は正当な利益を有するものとは認められない。

  (6)登録者のドメイン名は、不正の目的で登録または使用されているか
    本件ドメイン名は、申立人の傘下にある認証機関Thawteが1995年以降継続して
使用しており(甲第2号証、甲第3号証)、申立人が所有する世界的に著名な商標「THA
WTE」を含むものである。そして、欧文字「THAWTE」は、創作された造語である
(甲第5号証)と認められるところ、日本人が容易に考えつく語ではない。したがって、
登録者が、欧文字「THAWTE」を、偶然ドメイン名として採用したとは考えられず、
登録者は、認証機関Thawteが使用している「Thawte」、及び、申立人が所有す
る商標「THAWTE」の存在することを承知の上で、本件ドメイン名「THAWTE.JP」を登
録したものと認められる。
      登録者は、本件ドメイン名「THAWTE.JP」を現在使用していないが(甲第8号証)、
単に保持しているだけであっても、申立人がドメイン名「THAWTE.JP」を登録し、使用する
ことを妨害する結果を招来する。したがって、登録者は、申立人が権利を有する商標その
他の表示をドメイン名として使用できないよう妨害するために、本件ドメイン名を登録し
たものと認められる。
  申立人の所有する商標「THAWTE」は、本件ドメイン名の登録の当時既に、取引者、
需用者間に周知されており、本件ドメインが使用されるときは、サービスの出所、取引関
係などについて、誤認混同を生じさせることは明らかである。

  以上述べたところから、登録者が、本件ドメインを登録した行為は、「不正の目的で登録
または使用」されているものと認められる。

6  結論
  以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「THAWTE.JP」
が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者はドメイン名について権利又は正
当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名は不正の目的で登録されまたは使用されて
いるものと認定する。
  よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「THAWTE.JP」の登録を申立人に移転するも
のとし、主文のとおり裁定する。

     2006年9月6日

      日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                            木村  三朗
                            単独パネリスト


別記(手続の経過)
(1) 申立受領日
    電子メール  2006年6月30日    書面  2006年7月3日
(2) 適式性
  日本知的財産仲裁センターは、申立書が社団法人日本ネットワークインフォーメーショ
ンセンター(JPNIC)のJPドメイン名紛争処理方針(方針)、JPドメイン名紛争処
理方針のための手続規則(規則)、JPドメイン名紛争処理方針のための補則(補則)の形
式要件を充足することを確認した。
(3) 手続開始日    2006年7月13日
    申立人はセンターに対して2006年7月3日に規定料金を支払った。
(4) ドメイン名及び登録者の確認日
    センターの照会日(電子メール)  2006年6月30日
    JPRSの確認日及び確認内容(電子メール)
    1)  2006年6月30日
    2)  申立書に記載の登録者はドメイン名の登録者である。
(5) 登録者・登録担当者への通知日及び内容
    1)  2006年7月13日
    2)  申立書、申立通知書(郵送、ファクシミリ、及び電子メール)
    3)  答弁書提出期限   2006年8月11日
(6) 答弁書の提出の有無及び提出日
    登録者は答弁書を提出しなかった。
(7) 答弁書不提出通知書の登録者への送付日  2006年8月15日
(8) パネリストの選任
    1名パネル
    パネリストの指名  木村  三朗
(9) 紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知日  2006年8月18日
(10)宣言書の受領日  2006年8月22日
(11)予定裁定日  2006年9月7日